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11.個体間の空間関係

 個体間の関係は近接個体法(nearest neighbour method)によって分析した(表3)。この分析において調査地の端の方の個体については調査地外に近接する個体が存在する可能性があるので除いた。また個体の位置としてはHyne(1949)の活動中心(center of activity)を用いた。この分析では全期間を「行動圏の大きさ」と同様の3つの期間に分けた。5月は雌のみが繁殖状態(授乳中)だったが、この時期雌の個体間の距離が一番大きかった。6月から8月の非繁殖期では雄および雌・雌雄間で個体間の距離に大きな違いはない。また最大値と最小値の差が5月よりも大きくなっている。9月から10月では雄間および雌間の個体間の距離には大きな違いはない。最小値も大きな違いがない。最大値では雌の方が大きくなっている。雌雄間では前者2つの約1/2である。いずれの時期においても平均値で雄間と雌間および雄間と雌雄間・雌間と雌雄間の個体間距離の間には有意な差はない(P>0.05)。
 次に繁殖期と非繁殖期での個体間の距離の変化を見ていく。雄間の距離は、非繁殖期の個体間距離が他の時期に比べ有意に小さくなっている(P<0.05)。雌のみが繁殖状態の5月の個体間距離の平均値と両性とも繁殖状態の9月・10月の個体間距離の平均との間には有意な差はない(P>0.05)。最大値は3つの期間で大きな違いはない。しかし最小値では非繁殖期が一番小さい。また個体数の少ない5月は最大値が一番大きい。雌間では雄間よりもはっきりした変化を示す。繁殖状態にある5月および9月から10月に値が大きくなり、非繁殖期の6月から8月に小さくなっている。5月の個体間距離の平均と6月から8月の個体間距離の平均の間および9月から10月の個体間距離の平均と6月から8月の個体間距離の平均の間には有意な差がある(P<0.05)。また繁殖期の5月の値と9月から10月の値の間には有意な差はない(P>0.05)。特に最小値で非繁殖期は繁殖期の約1/3である。雌雄間でも非繁殖期に値が小さくなっている。雌雄間の個体間距離も雄間や雌間と同様に、5月の値と6月から8月の値の間および9月から10月の値と6月から8月の値の間には有意差があり(P<0.05) 、いずれの場合にも非繁殖期の6月から8月に個体間の距離が小さい。また5月の値と9月から10月の値の間には有意差はない(P>0.05)。最大値は3つの期間で大きな違いはないが、最小値では雌のみが繁殖状態の5月の値は他の期間の約2倍になっている。全体的に見ると、大きな変化の見られるのは雌であり、雄間および雌雄間ではあまり大きな変化は見られない。しかしこれら3つの範疇とも、傾向としては繁殖期に距離が長くなり、非繁殖期に短くなる。また個体間の距離の変化としては最大値よりも最小値の方が各期間の間で大きい。これは分析に含めた個体でも近接個体とした個体よりも近い個体が調査地外にいる可能性を示唆する。

論文図表

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