次へ前へ

7−2.メスの月ごとの行動圏の変化

 図12は成体雌の1986年の月ごとの行動圏の変化について示している。4月の雌の行動圏は定住個体と消失個体が全く違った地域を利用している。定住個体は調査地の南側に集まっており、また消失個体は北側に集まっている。それらはお互いに行動圏を重複しあっており、定住個体と消失個体の間に重複は見られない。この時期雌のほとんどが膣開口状態にあった。5月になると68Bと6080が移入してきた。またこの時期6080をのぞき、すべて授乳中であった。調査地内の南西の方に行動圏を持っていた53Bは行動圏を北の方に移動させている。その結果、5月の行動圏はお互いに重複しなくなる(これらは6080をのぞき、すべて授乳中の個体)。またこれら4匹の行動圏は調査地全体を占めている。6月には多くの個体が移入してきて、行動圏は大きく重複するようになる。このような6月の大きな重複は雄でも見られる。5月に授乳中であった3個体(68Bと71・53B)はこの月もお互いに行動圏は重複しない。この6月の行動圏の重複は北側の部分で多くなっている。5月に利用のなかったC6-8とD6-7付近は、多くの重複が見られる6月にも利用する個体はいなかった。また雄と同様、重複の多い地点に消失 個体がいる傾向があった。7月になると6月に幼体・亜成体であった個体が成体になっており、そのため行動圏が大きく重複するようになる。しかしながら、これら6月に幼体・亜成体であった個体はすべて8月には消失する。雄に比べると、7月は雌の場合、かなり重複度が高かった。8月になると7月に比べ個体数が減少し、重複は南側で多く見られるが、これらの重複はすべて消失個体によるものである。定住個体についてみると、その行動圏はお互いにほとんど重複しなくなる。9月になると、雄の場合と同様に、かなり個体数が減少する。この時期、雌はすべて膣開口状態にあった。この月は消失個体と定住個体の間に重複が見られるが、定住個体間ではほとんど重複が見られなくなる。この行動圏の重複の様子は雄と同じである。8月からの定住個体(7匹)のうち足跡を残したのは3匹で、あとの4匹は足跡を残さなかった。また9月に移入してきた個体(8匹)のうち、足跡を残したのは3匹であった。雌の場合、9月に捕獲された個体のうち足跡を残したのは体重の重い個体で、定住していた個体よりも体重の重い個体の方が定住する傾向がある(表1)。10月は9月と同様に、行動圏の重複 は小さい。このような行動圏は9月と同様に雄と似ている。この10月の状態(授乳中で、行動圏の重複が小さい)は、春の授乳中の時期の5月の行動圏の分布状態によく似ている。

論文図表

論文図表

論文図表

PAGE TOP